日本の労働市場を考える

甲田 健 10 Jun 2019

ここ数年停滞気味とはいえ、金融危機からほぼ立ち直っているはずの日本経済は、なぜ人手不足で躓いているのでしょうか?

ジャパンマクロアドバイザーズが発表している報告書によると、2018年12月の有効求人倍率は1.63でした。具体的な求人数は推定2,839,840件、応募者は1,743,820人。この乖離により日本の労働市場は人手不足に陥っています。

job offers to applicants

日本の労働力不足の背景には内外様々な要因があるので、ここでは幅広い視点から検討してみたいと思います。

まず、2010年以来減少を続ける人口の問題があります。その中で高齢化が急速に進んでおり、日本では退職者数が新卒数を大きく上回っている状況です。このため生産年齢人口が減り、働き手が不足しているのです。世界銀行の発表によれば、現在日本に住む1億2700万人のうち、2018年時点で労働力と見なせるのは6610万人に留まります。更にこの中で、多国籍企業で働く人の数はわずか61万人です。多くの企業が求める「有能な候補者」が如何に少ないかを示す数字と言えるでしょう。

こうした統計を見ると、労働力人口比率は減少していると仮説を立てたくなります。しかし実際は労働力人口比率は上昇しており、特に2012年以降伸びています。労働力人口比率とは、生産年齢人口のうち、現在就労している人と就労する意志のある人の割合です。世銀が発表しているデータをご覧ください。

Labour Force Participation Rate (LFPR)

この表を見ると、2012年には58.5だったのが、2018年に61.4に上昇していることがわかります。

その理由については諸説ありますが、大きな要因は女性の労働参加の拡大でしょう。これにより労働力人口比率が全体的に上がりました。とはいえ、日本の労働力人口比率は先進国の中ではまだ低めです(Trading Economicsによる下表参照)。

Labour Force Participation Rate by country

日本の労働力不足には、外国人労働者の少なさも絡んでいます。現在就労している6610万人のうち外国人は推計128万人、2%に過ぎません。入管が厳しい日本ですが、現在政府はこの割合を増やそうとしています。一部規制を見直し、昨年とうとう単純労働者の受け入れ条件を緩和する法律が成立しました。この改正により、保育に携わる外国人労働者が増え、女性が容易に、低コストで仕事復帰できるようになるという二重のメリットが期待されます。とはいえ、他の先進国に比べると日本は社会が同質的で文化的なハードルも高く、移民に消極的です。更に忘れてはならないのは、日系企業はもちろん、外資系企業においても日本語能力が未だ必須とされており、日本で働きたい外国人は選択肢が限られていることです。このため、日本の潜在的な成長を妨げる人手不足はまだ解決されたとは言えません。

そして、日本の労働市場が抱えるもう一つの大きな(ともすると最も大きな)課題は、流動性の欠如です。人が動けばよい、という簡単な問題のように見えて、日本社会の歴史的な価値観に根付いていることを考えると難しい問題です。こうした文化的な規範は、転職に対するイメージや考え方に影響しています。会社に就職するということは、生涯の伴侶を選ぶのにも似た決断であり、定年まで一社で「勤め上げる」人も珍しくありません。こうした場合、仕事は充実感や達成感を得るためのものではなく、尽くしたい、忠実でありたい、という気持ちを満たすもので、この価値体系においては会社を変わることはよしとされません。

このように、日本の労働力不足を引き起こしている要因はたくさんあるものの、私見を述べさせていただくならば人の流動性についてはこの二、三十年で大きく改善されたと思います。多くの会社(特に多国籍企業)では、社員の定着率は以前ほど高くありません。採用担当者が転職歴を持つ候補者に対してバイアスがかかった見方をすることも減りました。特に私が担当する金融業界ではこうした傾向は顕著です。大手の銀行や証券会社では転職する人は確実に増えています。日系の金融機関でも終身雇用の神話が崩れ始めています。グローバル市場で通用する競争力を育てるためにコストカットや効率改善に取り組んでいるからです。かつてないほど、日本の労働市場でリストラのリスクが高まっているのです。

しかし、悲観することはありません。人手不足はまだ続いており、求人数が求職者数を上回っているので、現在日本で仕事を探している方はアドバンテージがあると考えてよいと思います。転職市場におけるマーケットバリューは高いので、自信を持って転職活動を進めてください。


日本の労働市場についてもっと知りたい方、転職を考えている方はお気軽に相談ください。
 

Ken Koda's picture
アソシエイトコンサルタント | 銀行&金融 紹介部門
kkoda@morganmckinley.co.jp

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