今読むべき金融ノンフィクション

熊沢 義喜 26 Nov 2018

金融専門ヘッドハンターの眼から見て、実践的に学べ(アカデミックではなく)、楽しく読めるバンカーによって書かれた本をリストアップしました。

実際にトレーディング フロアで過ごした経験なしでは書けない、現場の息遣いが感じられる作品群。バンカーによるバンカーの為の、今読むべき金融ノンフィクション。是非、手に取ってください。

バンカーでなく、作家により執筆された良作の金融ノンフィクションとしてお薦めの2作:

「東京ゴールド・ラッシュ:原題 Ugly Americans: The True Story of the Ivy League Cowboys Who Raided the Asian Markets for Millions」
作者:ベン・メズリック Ben Mezrich
アメリカ人ヘッジファンドカウボーイ達が東京で大成功を収めた裏側。当事者の視点による地下経済の仕組み
 
「史上最大のボロ儲けージョン・ポールソンはいかにウォール街を出し抜いたか:原題 The Greatest Trade Ever: The Behind-the-Scenes Story of How John Paulson Defied Wall Street and Made Finance History 」
作者:グレゴリー・ザッカーマン Gregory Zuckerman 
サブプライムローンバブルの破綻を予測、金融史上最大の取引を成功させたウォール街の無名投資家のストーリー

現役時代のバンカーによって書かれたお薦め3冊:

「訣別ゴールドマン・サックス :原題 Why I left Goldman Sachs: A Wall Street Story」 
作者:グレッグ・スミス Greg Smith  
ポジション:エクイティデリバティブセールス

ニューヨーク・タイムスに実名でゴールドマン・サックスの実情を投稿、一躍有名になった元ゴールドマン・サックスVPが書いた本。スキャンダルな出来事をまとめた暴露本との印象とは大きく異なり、外資系投資銀行の日常が読みやすく書かれた(愛情を持って)良書。

  • スタンフォード大学出身のスミス氏が学部在学中(MBAではなく)から、どのように夏休みインターン選考申し込みから新卒本採用となったか。
  • 学部卒の新卒採用(アナリスト)がどのように担当となるデスクに採用となるのか。
  • 担当デスクでの細かい業務内容、そして担当部署が変わるのはどのような事態か。
  • 社内の同僚、先輩、上司、そしてメンターとの関係とは。
  • 昇進、そしてボーナス査定はどのような基準か。
  • 転勤(この場合はニューヨークからロンドンオフィス)に伴う社内稟議の仕組みは。
  • ニューヨークとロンドンにおける投資銀行文化の違いは何か。
  • そしてメインテーマである、外資系投資銀行(ゴールドマン・サックス)が1990年代から2012年に至るまでのカルチャー、ビジネス面での変遷。

これほど具体的に外資系投資銀行の日々を綴った本は、他に知りません。
ゴールドマン・サックス版「愛と追憶の日々」と言えます。

注:ゴールドマン・サックスに関する本

 ゴールドマン・サックス出身者による、同社に関する著作は他複数有。フィクションの形で作家、黒木亮が実際の ゴールドマン・サックスパートナーをモデルにした「獅子のごとく:小説投資銀行日本人パートナー」が秀作。

「外資系金融の終わり- 年収5000万トレーダーの悩ましき日々」
作者:藤澤数希
ポジション:エクイティトレーダー 
 
藤澤数希は作者のペンネーム、金融ブロガーとして著名。現役プレイヤーである作者が、本名では書くことが業務上難しい話題に取り上げている。外資系投資銀行を中心とした、金融業界の「不都合な真実」を教えてくれる秀作。
軽妙なタッチで、深刻で難しい金融における出来事を読みやすく(実際楽しく)読めるフォーマット。今まで、ありそうでなかった外資系投資銀行の現役プレイヤーによる現在進行形のストーリー。

  • 外資系投資銀行人事部の実体は死体処理部(解雇に伴う訴訟を防ぐのがメイン業務)
  • 日本のメガバンクの本業は融資ではなく、投資業務(日本国債への投資金額は融資金額を上回る)
  • 外資系投資銀行ボーナスの複数年分割払いにより転職者数激減(そしてヘッドハンターの商売が閑古鳥に)

などの外資系投資銀行インサイダーならではの面白い逸話が満載。外資系投資銀行をクライアントするアウトサイダーの眼から見ても、新鮮。
 
注:藤澤数希
作家として、他に以下の著作などを発表している
「なぜ投資のプロはサルに負けるのか」
「日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門」

 

「ライアーズ・ポーカー ーウォール街は巨大な幼稚園:原題 Liar's Poker: Rising through the wreckage on Wall Street 」
作者:マイケル・ルイス Michael Lewis
ポジション:債券セールス
 
ソロモン・ブラザーズ(現シティグループ)債券セールスマンによる回顧録。トレーディングフロアのエリート集団「ビッグスインギングディック」と呼ばれる一員になるまでの旅路。80年代、映画「ウオールストリート」でも描かれた投資銀行業界の黄金時代。
プリンストン大学で美術を専攻した作者の就職活動から話は始まる。アイビーリーグ名門出身だが、希望するニューヨークの投資銀行業界の面接は全滅(アメリカでは面接で専攻が重要視される)。次善策としてイギリスに留学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで修士を終了後に何とかソロモンブラザーズにコネ入社。
ニューヨークにおける泊まり込みの新人研修、ロンドン支店への着任、そしてロンドン及びニューヨーク債券トレーディングフロアの日々。卓越したストリーテラーである作者が、ダイナミックな人間模様をリアルに描いた(もはや動物園ともいえる現場)。
登場人物は投資銀行業界におけるオールスターチーム

  • ジョン・グッドフレンド:当時のソロモン・ブラザーズCEO、同社中興の祖でのちにヘッジファンドLTCMを設立。別名、ウォール街の帝王
  • ジョン・メリウェザー:当時のトレーディングヘッド、そしてライアーズ・ポーカーのベストプレイヤー。
  • ルイス・ラニエリ:当時の住宅ローン担保証券トレーディングヘッド(MBS)郵便室夜勤アルバイトが這い上がった、立志伝で知られている。
  • 松本大:マイケル・ルイスとソロモン・ブラザース新卒同期。後にゴールマン・サックスパートナーを経て、マネックスを設立。
  • その他、実名は書かれていないが(ヒューマンピラニアなどあだ名で登場)当時のトップセールス及びトップトレーダー達が色を添えている。

作中で詳しく触れられていないが、同時期のソロモン・ブラザースには他著名プレイヤーも在籍していた。

注:マイケル・ルイスその後
ソロモン・ブラザーズ 勤務後、職業作家に転身。
金融関連著作多数、 「世紀の空売りー世界経済の破綻に賭けた男たち:原題 The Big Short : Inside the Doomsday Machine」 などで知られる。
他野球に関する著作の「マネー・ボール:原題: Moneyball: The Art of Winning an Unfair Game.」、アメフトを描いた作品「ブラインド・サイド アメフトがもたらした奇蹟:原題 The Blind Side: Evolution of a Game.」などもベストセラーに。これらの著作はいずれも、映画化されている

注:題名にもなっている「ライアーズ・ポーカー」とは
米国ドル紙幣に印刷されている通し番号を使ったポーカー。記憶力と統計センスが求められ、トレーディング能力と類じた技術が活かせる。松本大氏は、日本人最高のライアーズ・ポーカーのプレイヤーと言われている。

注:「ビッグスインギングディック」とは
トレーディングフロアで働くトレーダー、もしくはセールスが尊敬の念を込めて呼ばれる呼称(大物、に近い意味)。広い意味では大きなディールをまとめた実績など、稼ぐ力がまわりに認められた存在。

注:同時期のソロモン・ブラザース他著名プレイヤー  
マイケル・ブルームバーグ:当時のパートナー、債券トレーディングシステムを開発(現在のブルームバーグの原型)、後のニューヨーク市長。
マイロン・ショールズ:当時のクオンツ担当、のちにヘッジファンドLTCMを設立。ノーベル経済学賞受賞。
明神茂:当時の東京マーケット全体で一番稼いだトレーダー、のちにソロモン・ブラザース副会長を経てヘッジファンド、チューダー・キャピタル日本法人会長。別名、Sugar。
 
 
ご紹介した3冊は1980年代から現在に至るまでのトレーディングフロアの貴重な歴史。
リアルタイムのトレーディングフロアの状況、こちらは当方にお問合せ下さい。

 

Yoshiki Kumazawa's picture
シニアマネージャー | 銀行&金融, フロントオフィス 紹介部門
ykumazawa@morganmckinley.co.jp

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