人工知能で仕事はどう変わる?(金融リスク・コンプライアンス・監査編)

ビットコインなどの暗号資産が注目を集めていることからもわかるように、フィンテックによって「お金」の在り方や金融の仕組みが大きく変わろうとしています。

ビットコインを始めとする仮想通貨のニュースが連日メディアを賑わせていたのは2017年のこと。その後様々なスキャンダルを経て価値を大きく落とした通貨もあり、暗号資産は当初の勢いを失っているかのように見えます。しかし、個々の通貨の浮沈はともかく、その土台となっているブロックチェーン技術の登場はやはり大事件だったと言えるでしょう。こうした先端技術が、金融の世界を大きく変えようとしています。

6月には米フェイスブックが自社開発のステーブルコイン、リブラ(Libra)の構想を発表しました。取引にはブロックチェーン技術を使い、現実の法定通貨と連動させる目論見だと言います。

新たなテクノロジーによって金融業界はどのような影響を受けるのでしょうか?これからの金融業界におけるリスク、コンプライアンス・監査のキャリア像、2020年代に必要とされる人材について考えてみたいと思います。

2008年に始まった世界金融危機から10年余り。その間金融業界では様々な規制が導入され、国際的にリターンの追求よりもリスク回避が重視されるようになりました。結果、各社のコンプライアンス・コストは膨れ上がり、与信管理の厳格化・自己資本比率や流動性規制の強化によって収益力も下がりました。しかし最近は規制改革がひと段落し、業界では新規制対応から現行ルールの完成度を高める方に焦点が移っています。今こそがリスクやコンプライアンスの枠組みを磨き上げる好機なのです。コストを削り、利益率を上げるために新テクノロジーを活用したい、という金融機関は決して少なくありません。

レガシーシステムや複雑なコーポレートガバナンスの仕組みを持つ大手証券会社などでは、一部フィンテックや新興企業のように身軽にIT改革を進められないものの、ロボティクスやプロセス最適化、人工知能やコグニティブ・コンピューティング、自然言語処理(NLP)、機械学習といった技術への投資を始めています。先端技術の導入によりオーバーヘッド・コストを削減し、新事業や新種のリスクへの対応力を強化するのが狙いです。


リスク、コンプライアンス、監査業務への影響

リスク部門では今まで以上にテクノロジーの果たす役割が大きくなり、業務がスリム化していくと考えられます。認知能力を備えたデジタルツールで社内外のシステムを網羅的に監視すれば、新種のリスクの発見にも役立つはずです。

現在、人間が何時間もかけて行っている業務はRPAやプロセス最適化が進むでしょう。人間よりもスマートコンピューターの方が向いているタスクもあるため、日系であれ外資系であれ、新技術の登場は複雑なミドル・バックオフィス部門を持つ金融機関にとっては朗報です。代表的な認知技術(コグニティブ・テクノロジー)には自動意思決定やデータ選別技術があり、応用が進めばオペリスクや与信審査といった分野が影響を受けると思われます。また監査についても、その手法が年々進化しており、データ解析や自動化技術によってリスク評価などのやり方が大きく変わるのではないでしょうか。

金融業界におけるロボティクス導入の究極の目的はヒューマンエラーを一掃し、正確性・信頼性を担保することです。AIや機械学習技術なら、データが蓄積されるにつれて(理論上は)自動化タスクが更に最適化され、内部統制強化や新規制対応も容易になります。こうした「レグテック」(RegTech:レギュラトリー・テクノロジーの略)は新たな規制やトレンドへの対応力を高め、リスク管理態勢を強化するためのデータ解析を提供するものとして期待が高まっているのです。

コンプライアンス部門ではテスティング、モニタリングやトレード・サーベイランスといった業務で変化が見られるでしょう。繰り返しが多いタスクは人工知能の得意分野だからです。24時間体制で徹底して監視ができる上、リスクを発見しやすくなるはずです。コンピューターによる管理を進める背景には、過失によるリスクを抑え、会社全体のリスクマネジメント態勢を強化したいという意図があります。しかし、デジタル化は会社にとっては経費節減や効率化など多くのメリットがある一方、社員の立場からすると失職してしまう可能性も否定できません。ルーチン業務が多い仕事ほど、テクノロジーとの接点が多くなります。マッキンゼー社はプロダクトコントロールやリスクマネジメントなどのミドルオフィス職も、「Front-to-back オートメーション」が進めばアルゴリズムに取って代わられるだろうと分析しています。


雇用への影響は?

人工知能やロボティクスが雇用にどんな影響を与えるのかについては、楽観論から悲観論まで様々な意見が聞かれます。どちらの主張にも理がありますが、現実的には一定数のポジションがリストラの対象となるものの、仕事内容が再定義されることで新たに必要となるポジションも出てくると考えるのが妥当でしょう。テクノロジーは人間の補助をすることはあっても、人間の上位に立つことは恐らくありません。完全に機械任せにするには、金融機関にとってのリスクが大きすぎるからです。ほとんどのプロセスでは人間による理性的な判断や論理的な意思決定が欠かせません。とはいえ、日常的に使用するデジタルツールが増え、テクノロジーの使い方がわからなくなれば業務をこなせなくなることは明らかです。これからの金融業界で生き残るには、ITに強くなる必要があります。

新テクノロジーによって自分のポジションやキャリアが危ういと思われる方は、スキルアップを目指してみてはいかがでしょうか。開発やプログラミング、スクリプティング・プラットホームなどを勉強してみるのもよいでしょう。また、日本でも確実に存在感が増しているフィンテック企業に転職するのも一つの選択肢です。フィンテックは既存の金融ビジネスモデルを脅かすものと思われていますが、実際には技術力を生かして銀行や証券会社と連帯し、クライアント・エクスペリエンスの向上に力を振り向けている企業が目立ちます。多くのフィンテック企業は既存システムに適合しようとしているのです。メインストリームの金融機関での職務経験はきっと転職後も役に立つことでしょう。

金融業界で存在感が増している新テクノロジー。実際にリスク、コンプライアンスや監査に携わっている皆様はどう思われますか?ご意見、ご感想などございましたら是非コメント欄やメールでお聞かせください。

金融業界の最新の求人はこちらからご確認下さい

最新の求人一覧

モーガンマッキンリーはあなたのキャリアパートナーです。
スキルアップ、転職活動をご検討の方は是非お気軽にお問い合わせください。

Duncan Glibert's picture
シニアコンサルタント | 銀行&金融 紹介部門
dgilbert@morganmckinley.co.jp

業界動向と最新記事